毎年恒例の行事である確定申告を、今年も無事に完了いたしました。会社員時代から投資活動を行ってきた私にとって、この手続き自体は決して目新しいものではありません。しかし、2025年に24年間勤めた会社を辞め、FIRE生活に突入してから迎えた今回の申告は、これまでのそれとは全く異なる意味を持つものとなりました。
事務的な手続きの裏側に潜む、アイデンティティの変化と今後の戦略について整理いたします。
1. 熟練のルーティンが生んだ、意外な「実感」
例年通り、マイナポータルとe-Taxを連携させたデジタル申請を行いました。作業自体は手慣れたものです。入力作業の効率を優先してPCで数字を打ち込み、最終的な本人確認をスマートフォンの顔認証で済ませるという「ハイブリッド方式」は、今や確定申告における最も洗練された様式と言えるでしょう。以前から確定申告をやっている人はわかるでしょうが、10年前では考えられない進歩です。
しかし、例年であれば淀みなく進む入力プロセスの途中で、私はふと指を止めました。それは「職業欄」の選択です。
これまでは迷わず「会社員」と記し、所属する組織の記号を背負ってきましたが、今回はそこに「無職」と入力しました。その瞬間、私の胸に去来したのは、寂寥感や虚無感といったネガティブな感情ではありませんでした。むしろ、「自分は本当に、組織から独立した自由な立場を手に入れたのだ」という、FIRE達成への確かな手応えと実感だったのです。
2. 「投資家」でも「事業主」でもない、今の自分
税務上の区分において、現在の私を定義する言葉は「無職」が最も誠実かつ正確です。
もちろん「投資家」という呼称も頭をよぎりましたが、現状の活動実態に鑑みると、それは実態よりも虚飾に近い響きを伴います。また、ハローワークを通じた再就職支援の枠組みの中にいる以上、現時点で「個人事業主」を名乗ることも適切ではありません。
公的な書類に「無職」と刻む行為。それは、社会的な肩書きをすべて脱ぎ捨てた「裸の自分」を肯定するプロセスでもありました。かつては組織の一部として機能していた私が、今は自らの資産と意思のみで立っている。その事実が、職業欄の二文字を通じて明確に可視化されたのです。
3. 戦略的な「空白」の維持:法人化と資格の活用
今後の歩みについては、論理的なコストベネフィットの観点から、あえて「急がない」という選択をしています。
• 事業化の損益分岐点:
マイクロ法人の設立は社会保険料の最適化に寄与しますが、法人住民税等の固定コスト(約7万円〜)や決算事務の負荷を考慮すれば、収益見込みが立たない現段階での設立は合理的ではありません。まずは「個人事業主としての屋号」を持つ程度が、最も柔軟な落としどころとなるでしょう。
幸い、私にはCFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)としての専門性があり、宅地建物取引士としての登録も目前に控えています。これらは、必要に応じていつでも「看板」として掲げられる武器です。しかし、今の私にとって重要なのは、その武器を振るうことではなく、いつでも振るえるという「選択肢を持っていること」そのものです。
4. 結びに:確定申告という名の「卒業式」
今回の確定申告は、私にとって24年間に及ぶ会社員人生からの、真の意味での「卒業式」であったように感じます。
書類上の「無職」というステータスは、決して社会との断絶を意味するものではありません。それは、特定の組織に依存せず、自らの人生のハンドルを完全に掌握したという「自由のライセンス」です。
これから先、働き方や肩書きをどう再定義していくか。その白紙のキャンバスを前に、焦ることなく、次なる投資機会や人生の設計図を練り上げていきたいと考えています。
それまでの間、無職という『何者でもない』、ある種浮ついた状況を楽しみたいと思っています。